2013年3月10日日曜日

【世界街角通信】第158号アルメニア大統領選挙と南コーカサス 2013年3月9日



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メールマガジン「世界街角通信」       第158 201339
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218日にアルメニアで大統領選挙が行われました。そのアルメニアとアルメニ
アが位置する南コーカサス地域の今後の方向性についてレポートします。

▼目次
■アルメニア大統領選挙結果と今後の南コーカサス情勢

■■後記
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■アルメニア大統領選挙結果と今後の南コーカサス地域情勢

先月の218日にアルメニアで大統領選挙が行われた。アルメニアはソビエト連
邦から1991921日に独立宣言を行い、10月にペトロシャン初代大統領が就任
し、今回の大統領選挙で6回目、大統領としてはペトロシャン大統領、コチャリ
ャン大統領、サルグシャン現大統領と3人が就任、今回の選挙はサルグシャン現
大統領の再選をかけた選挙となった。三選は禁じられているので、今期がサルグ
シャン現大統領の最後の5年間となる。

さて、そのアルメニアについては日本では直ぐにアルメニアをイメージできる人
やアルメニアがどこにある国か等の知識を持っている人は少ないのが現実ではな
いだろうか、地理的にはヨーロッパよりも近いが心理的には地球の反対側近いの
が現実のようだ。

アルメニアは旧ソ連構成共和国の一つであり、ソ連邦が崩壊した1991年にその他
の構成国家と同様に独立し、現在に至る。場所は、南コーカサス、北コーカサス
はロシア領内となり、カフカス山脈の南側に位置し、グルジア、アゼルバイジャ
ン、トルコ、イランと国境を接する。

今回の大統領選挙は7名が立候補し実質的に現職大統領のSerzh Sargsyan(Repub
lican Party)Raffi Hovannisian (Herritage)との選挙戦となった。選挙結果
Sargsyan58%Hovannisian32%の得票となり、現職であるSargsyanが二期
目を務めることになった。他の5名の得票率は4%以下であった。
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日本外務省はこの大統領選挙結果について「平穏かつ民主的に行われたことを歓
迎する」コメントを発表している。また、選挙監視員をOSCEODIHR選挙監視団
へ在ロシア連邦日本大使館から1名派遣している。なぜ、在ロシア連邦日本大使
館なのか、それはアルメニアに日本大使館がまだ設置されておらず、モスクワか
らアルメニアを管轄していることによる。

この選挙結果はアルメニア及び南コーカサス地域にとってどういう意味があるの
かというと、サルギシャン大統領の再選により内政的に大きな政治的変化をもた
らすものではないが、STRATFOR他で分析されているように南コーカサス地域にお
ける広義の戦略的な転換期に直面する。これはアルメニアにとっては、昨年以来
のロシア・グルジアの関係改善により、アルメニア自身の政治的な孤立化を改善
する地域経済統合の進展により、アルメニアにとっては経済成長が可能となるこ
とを意味する。
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アルメニアはアゼルバイジャンや旧ソ連圏の専制的な国家とは異なり、アルメニ
ア大統領選挙は典型的に非常に競争が激しい。1998年と2003年の大統領選挙では
最初の選挙で過半数を取れなかったことから両選挙とも決選投票となった。過去
においてこの競争が時折暴力と不安定をアルメニアにもたらした。2008年の選挙
では、現職大統領のSerzh Sargsyanが政権に付いが、対立候補であるLevon Ter-
Petrosianの支持者によるエレバンでの数万人の抗議デモが発生した。デモは暴
徒化し治安維持部隊の介入により鎮静化したが、その結果、死傷者が多数発生し
た経緯がある。

今回は前回とは異なり、過度な競争は予測されておらず、実質的に現職大統領の
Serzh Sargsyanに挑戦する候補者はなく、二人の前大統領であるLevon Ter-Petr
osianRobert Kocharianの両氏とも立候補を辞退した。その結果、不安定化若
しくは暴徒化の見込みは避けられた。世論調査結果からSerzh Sargsyanの勝利が
60-70%の得票と楽観的な予測であった。

外交政策に関しては、大統領選挙で誰が勝利するかに関係なく多大なシフトはあ
りそうもない。全ての候補者は、ロシアとの関係強化を広範囲に支持、モスクワ
は重要なエネルギー供給者であり、外国援助と投資、そして、ロシアは鉄道、通
信、天然ガスパイプライン等のアルメニア国内の多くの戦略的なインフラ資産を
所有している。

重要なのはロシアがアルメニアに5000名の兵力を有する軍事基地(102露軍基
地)を維持し、アルメニアがアゼルバイジャンと紛争中であるナゴルノ・カラバ
フ占領地に関する安全保障上の保証をしていることであり、アルメニアの地政学
的な方針の変化は今後もありそうもない。
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しかし、大きな変化はアルメニア国境の向こう側で既に進捗している。過去数十
年、アルメニアはコーカサスにおけるロシアの頼みの綱であり、グルジアは米国
及びNATOとの関係強化を目指し、アゼルバイジャンは、ロシアと欧米とのバラン
ス関係に努めた。しかし、201210月の総選挙で野党が躍進し、Bidzina Ivanis
hviliが首相に就任以降、トビリシはモスクワとの関係改善を積極的に進めてい
る。
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アゼルバイジャンやトルコはこのグルジアの方針転換に懸念を示し、他方、アル
メニアはこの転換を強く支持している。グルジアとロシアの関係強化は、ロシア
からアルメニアへ直接鉄道を繋げアルメニア経済を強化する事ができるアブハジ
ア経由のロシア‐グルジア間鉄道復旧の事業化等への関心を呼び起こしている。

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この事業を含め障害は多いけれどもこれらの事業がコーカサス地域におけるアル
メニアの孤立を改善することに繋がる。アルメニアは、長きに亘りモスクワの強
固な同盟国であり、南コーカサスでのよりロシアに近い政権の出現は、アルメニ
アの政治的経済的な展望を明るくさせている。

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■■後記

筆者が注目しているユーラシア情勢、その中でも南コーカサスの小国アルメニア
での大統領選挙と地域情勢についてレポートした。

冒頭の通り、日本と直接的な関係は濃くないこともあり、日本の外交方針である
「自由と繁栄の弧」の文脈で考えて行くのが当面であろう、南コーカサス地域の
視点でもでもそれぞれが経済規模が小さいこともあり、新たな軸が出現するとも
思えない。しかしながら間接的にはこの地域の安定化が日本の利益に繋がるので
はないだろうか。

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